【各種ソートへのリンク】

プラソートはこちら。(「十色定理」まで更新済)

People In The Boxソートはこちら。(「Tabula Rasa」まで更新済)





クリスマスの街を彩る曲(1) BLUE HEAVEN

サザンオールスターズ「BLUE HEAVEN」

 

サザンの曲って、YouTubeにはあまり無いので、初音ミクさんが歌ってくれている動画を参考に貼り付けておきます。

 

 

ハロウィンが終わると、世間は一気にクリスマス気分。

街に一斉にクリスマスソングが流れるにはまだ早いのですが、寒い冬を暖めてくれる曲を挙げていきます。

それにしても、クリスマスに向かう季節の曲を挙げると、ほとんど90年代近辺の曲になってしまいます。

ある意味、クリスマスとはノスタルジーを内包するものなのかもしれません。

寒くて暖かい冬の記憶。

 

 

これはまさにそんな曲で、最近はめっきり聴かなくなってしまったケンタッキーのCMソング。

この曲が流れると、オリジナルチキンを山のように食べたくなります。

クリスマスのパーティーバーレル、暖かな家族のクリスマスを象徴する曲だと思います。

 

CMで聴く限り、とても暖かな歌なんですよね。

歌い出しが、

暖かな風に乗り 君は降りてくる

だし。

桑田さんの歌い方にも暖かな眼差しを感じる。

 

だけど、実際にはそういう曲ではなくて。

別れの曲、というか、愛情を傾けた相手が居なくなったことを実感する曲。

Blue Heavenとは、多分、その女性と出会った海のこと。

出会った場所でその影を探すけれど、夏が終わってしまった寒い季節、もう誰もいない海。

 

桑田さんの優しい歌は、どちらかというと未練です。もう無くなってしまった暖かさに手を伸ばし、その記憶に触れるときの一瞬の喜び。

本当に、この人の歌声は感情を描くのが上手い。

 

 

翻って、

この曲をケンタッキーのクリスマスのCMに選んだセンス。これは凄いです。

(当時のサザンの新曲だったというだけかもしれませんけれど)

サザンなら、もっと楽しい曲もいっぱいあるのに。

 

クリスマスに家族でパーティーバーレルを食べた記憶。

そんな暖かさは、今となっては望むべくもないけれど。でも本当に良い時間だった。

そんなことを、クリスマスになるたびに思い出すのです。

そして、その暖かさに手を伸ばしたくなる。懐かしいケンタッキー。

1997年のCMは、今になって生きてくるプロモーションだったのです。

CMの効果は消えても暖かな記憶は消えない。

あの頃の記憶と紐づくほどに力がある楽曲だったことも、とても大きかった。

 

クリスマスの暖かさ、それを象徴する曲です。

秋の夜長を彩る曲(13) VALON

Ilmari×Salyu「VALON」

 

 

Salyuのデビューシングル「VALON-1」のバージョン違いです。

そちらも好きですが、より秋の夜にふさわしいのはIlmariとのデュエットバージョンです。

 

デビュー当時のSalyuは本当に神がかっています。力強いのに透明な声。

そしてやっぱり、歌唱力が凄い。

 

Ilmariのラップは、RIP SLYMEではもっさりしていてあんまり…でしたが、

この曲の中で、彼の後ろ乗りのリズムはある種の色気を醸し出しています。これが全体に夜のムードを出す、良い味付けになっています。

 

全然違うキャラクターの声。

この二人を混ぜようなんて普通は思わないけれど、この曲では不思議なほどに絡み合い、溶け合っています。

きらきらした光を思わせるSalyuの声と、夜を思わせるIlmariの声。この両者が世界にくっきりとした陰影を浮かび上げているよう。

この頃は無かった概念であるチルとエモが混ざり合いながらマーブル模様を描いていて、その明滅に息を飲みます。

確かにこれは、Ilmariじゃないと出来ない世界。

 

「VALON-1」もそうですが。

この曲は、本当に小林武史のセピア色にサイケデリックな世界観が凄まじい圧力をもって眼前に迫ってきます。

それは二人の強力な歌い手の力によるものではあるのですが、やはり小林武史のソングライティング能力の凄さを感じずにはいられません。

彼の最高傑作はこの曲なんじゃないかな。

 

秋の夜長を彩る曲(12) 8823

スピッツ「8823」

 

 

夜のイメージが強いアルバム「ハヤブサ」の、多分リードトラック。

この頃のスピッツは、普段あまり表に出てこないドラム崎山さんのテクニックが存分に生かされており、ロックテイストがかなり効いた演奏になっています。

今も演奏は凄いのだけど、当時はもっとギラギラ感というか、派手な曲を作ってやろうって意思が前面に出ていました。

あまりにも自由にやり過ぎていて人気が少し落ち気味だった時期なのですが、今ではライブの定番曲はこの頃のものが多い。

「8823」「メモリーズ・カスタム」「けもの道」「放浪カモメはどこまでも」って、確かに盛り上がる曲ばかり。

自分が好きなように作った芸術って、やはり強い。

 

 

この曲は、その頃の自由さを描いた曲だと思うのです。自分の信じる道を進むことの素晴らしさとか。

 

さよなら出来るか 隣り近所の心

あの塀の向こう側

何もないと聞かされ

それでも感じる赤い炎の誘惑

「チェリー」やら「楓」あたりの『スピッツらしい』曲をヒットさせた結果、世間やレコード会社が求めていることと自分たちがやりたいことの間の溝が大きくなってしまって自縄自縛に陥ってしまったバンド。

その状況を描いているのがこのあたり。

 

それらを捨て去ってサビでは飛び立ちます。

誰よりも速く駆け抜け

LOVEと絶望の果てに届け

やりたいことを全力で、誰にも否定されないような強さでやり切ったとき、

周りにはどう思われるのか分からないけれど。それでもどこか新しい場所を見ることは出来る。

 

そんな決意表明みたいな曲だと思っています。

長いキャリアの中で、彼らが唯一解散を考えた『マイアミ・ショック』の後だっただけに。

 

君を自由にできるのは

宇宙でただ一人だけ

 

この曲は捻くれたラブソングだとよく言われますがそんなことは無いと思います。

君を自由にできるのは、彼でもないし誰かでもない。もちろん僕でもない。

君を自由にできるのは君だけ。

だから駆け抜けるんだ。

 

凄く強いメッセージです。

 

 

この曲では、アルバムの他の曲と同様、崎山さんのドラムのキレキレ具合に惚れ惚れするのですけれど、

いちばん魅力的なのは三輪さんのギターです。

彼のギターって(見た目に似合わず)優しい音が魅力なのですけれど。

この曲では、放り投げるような、空をゆらゆらと切っていくような、そんな演奏なんですよね。

それでいて、光がきらきらと舞うような。美しい音です。

そして何より、Cメロ後のギターソロ。ここではイントロと同じメロディーを低音側にアレンジしていて、これまでスピード一辺倒だった「君」が雄大に飛び始めます。

この変化が本当に美しい。

 

 

この後の「三日月ロック」は、「ハヤブサ」で培ったロックサウンドをベースにしつつ、これまでの自分たちが積み上げたものの良さを再び出していく方向にシフトチェンジします。

スピッツは全く変わらないようでいて、それでも唯一あった特異点。これが音楽に深みをもたらしたことで、彼らは今の場所にたどり着いたのです。

自分の思うままに飛んだ結果です。

このアルバムが好きかどうかは分かりませんが、とても重要なものであることに違いはありませんね。

 

 

秋の夜長を彩る曲(11) 能動的三分間

東京事変「能動的三分間」

 

 

能動的三分間というタイトル通り、本当に3分ぴったりで終わる曲。

MVはカウントが入っている都合上、3秒ほど長いのですけれど。

だから、カップラーメンを作るときにはこの曲をタイマーがわりにすると幸せな気分になれます。

 

音楽をカップラーメンに例えて、そこからイメージがどんどん派生していく曲です。

サウンドも含めて、めちゃくちゃに自由。

 

カップラーメンって、棚を漁ってお湯を注げばすぐに出来る。

このインスタント感。

 

Hit! 格付のイノチは短い

という歌詞は、サブスク化し、リストから取り出せばいつでもインスタントに聴くことが出来る音楽に対しての皮肉なのですが、

ここで、

才能開花した君は

ヒッチハイクの巧いベテランペーパードライバー

という言葉が出てくるのが最高にキレキレ。

インスタント化した音楽を作る、インスタント化した才能。

 

能動的三分間とは言っても、アグレッシブすぎる気がします。

 

これと対比する歌詞が

Rock! 音楽のキキメは長い

なのですが、

「才能」と「音楽」を対比概念にしているのが面白いです。

 

売れ筋のカップラーメン新製品は品質が高くてもすぐに廃れてしまうけれど、

人にまた食べたいって思わせるやつは、長い間美味しさに浸っていられる。

みたいな。

その差は何なのでしょう。

開発者のカップラーメンに対する愛情だろうか。

 

 

この曲はジャズの香りを感じるダンスミュージック。

リズム楽器は、本来打ち込みでやるべき変態リズムを全手動で演奏していて、一種の狂気を感じます。

特に亀田誠治さんのベース。

とてもかっこいい。

『三分間でさようならはじめまして』あたりのグルーヴ感と、

『格付のイノチは短い』直後の情感たっぷりの演奏。

これが一曲の中に共存できるのは、さすが亀田さん、という感じ。

 

あと、何よりも浮雲さんのコーラス。

私はこの人のコーラスが好きなので、ツインボーカルみたいになっているこの曲は素晴らしいのです。

 

本当に、3分間で目まぐるしく移り変わる夢みたいな曲です。

イメージがどんどん流れていって、その中では本当に自由に動いていられる。

 

自由というと、

このMVの中では椎名林檎が時間を超えて動き回っているのですけれど、

何故かキーボードの伊澤さんだけ直接的に被害を受けてて気になります。

他の人は普通の扱いなのに。

自由にしても、自由すぎますね。

 

 

秋の夜長を彩る曲(10) LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜

サザンオールスターズ「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」

 

 

連れて歩けない 役柄はいつも他人

 

この曲は疑う余地も無く不倫の曲なのですけれど、

それでも、曲全体に漂うきらきらした空気は凄まじいものがあります。

横浜の夜景のせいなのか、

それとも不倫という非日常がそうさせるのかは分かりませんけれど、

サザンの曲の中で最も明度の高い、眩しいほどの輝きを放つ曲です。

 

この曲に出てくる場所は、全て横浜のみなとみらい地区周辺にある名所です。

夜景が美しくて、神奈川県民にとっては理想のデートコースだったりします。

一度はやってみたかったのですけれど、お酒が飲めない時点で全く無理です。

 

船上レストランで夕食をとり、

大黒埠頭付近で外に出れば煌くベイブリッジ

そして山下公園に戻り、みなとみらいの夜景を眺めながら夜風を感じて、横浜にある最古のホテルのバーへ。

 

ベタというか、むしろ完璧すぎる。

理想のデートプランなるものは、昭和のトレンディドラマで既に完成されていたのでしょう。

 

この曲を聴くたびに、早く大人になって理想のデートプランをやってみたい、と思っていました。

大人の中にも、それが出来る人と出来ない人が両方いるということを後になって知りました。

 

 

サザンオールスターズってだいぶ息の長いバンドですけれど、この頃が音楽的に絶頂期だったんじゃないかな。

楽器隊の音がとにかく素晴らしい。

この曲で特筆すべきは大森さんのギター。この音が夜に輝く街をイメージさせるんですよね。

甘さと深さが両立している。

特に、Bメロ部分でのリフが凄く好きです。

 

原由子さんのキーボードは相変わらず素晴らしい。優しい波みたいに揺らぎます。

この曲の中では、この揺らぎが二人の高揚感を描いているようで、聴いているだけで楽しくなれます。

そして何より、この曲のコーラスでは原由子感が完全に抑えられている。

この人の声って、午後から夕方にかけての沈みゆく太陽みたいな感じ。他の曲では主張が強いのですが、この曲ではキーボードと絡み合って、ムーディーな空気を纏っています。

 

個性の強い人たちが集まったバンドですが、この頃の曲は、どちらかと言うと全員で作品の方を向いている感じ。

全員で突き通して到達した世界、そんな感覚を受ける曲です。

 

だけどやっぱり、この曲は桑田さんじゃないと歌えないんですよね。

あの声と歌唱力で歌われると、世界観の説得力が凄い。

 

結局、何だかんだでサザンの顔は桑田さんだという事実に改めて気づきます。

バンド全員の力で、桑田さんの好きなことを全力で実現させる。そんなバンドなのでしょう。

秋の夜長を彩る曲(9) 夜の公園

赤い公園「夜の公園」

 

 

ボーカルが変わることでここまで印象が変わるのか、って。彼らを見ていると驚きます。

前ボーカルの佐藤さんは、力強くて、良い感じに吹っ飛んだ歌声の持ち主でした。

激しい演奏と絡み合って、くるくると変転する万華鏡を覗き込んだような。そんなイメージのバンドだったんです。

 

今のボーカル、石野さんは、優しい声の持ち主。元アイドルだったということもあり、やわらかい印象の声です。

演奏の激しさは相変わらずなのですが、石野さんのボーカルを生かすためなのか、どことなく柔らかさを感じるようになりました。

 

どちらにも独特の魅力がありますが、私は今の赤い公園が好きです。

演奏の強さをふわりと受け止めるようなボーカルの姿に、ある種の美しさを感じます。

 

 

この曲は、友達だと割り切れない相手との関係性を描いています。

多分、佐藤さんがこの曲を歌っていたら、相手から無理やりに目を背ける主人公の姿が浮かんでいたのでしょうが、

石野さんが歌うと、思いっきり見つめているけれど相手がそれに気付いてくれない、そんな映像が浮かびます。

切実に、全力で見つめる視線の美しさ。

 

想いを伝える勇気を分けたら

私の分だけが無くなった

って、凄く良い歌詞。

共感できる人は多いだろうな。

 

でも本当に、新旧ボーカルの二人では世界観がまるで違う。

意地を張って素直になれない主人公と、

伝えるだけの勇気が持てない主人公と。

どちらに説得力を感じるかは人それぞれで、加入してすぐにここまでの存在感を放つ石野さんの凄さも強く感じます。

 

作詞・作曲は、他の大多数の曲と同様、ギターの津野さん。

赤い公園というと、やはりぶっ飛んだ感じのギターが印象的なのですけれど。

こうやって石野さんの声で聴いてみると、津野さんのソングライティングの凄さを感じます。

そういえば、石野さんが赤い公園に加入したのも、津野さんからの繋がりだったりとか。

改めて凄い人です、やはり。

秋の夜長を彩る曲(8) スターフィッシュ

ELLEGARDENスターフィッシュ

 

 

若さというか、エネルギーを感じる曲です。

荒々しい、粗野な印象の音を鳴らすロックなのに、歌詞はとても繊細。

 

この曲の良さはツインギターの音。

特にサビ部分の、細美さんのエネルギーに溢れるギターに生形さんのきらきらした音が乗る部分、あの部分の音がとても好きです。

満天の星空の明るさと、それを見上げる少年。その輝きが伝わってくるんですよね。

 

他の楽器も合わせたエネルギーの坩堝の中で、その真っ直ぐな視線が本当に美しい。

 

 

こんな星の夜は

君がいてくれたなら

何を話そうとか

 

「君」が誰のことを示しているのかは分かりませんが、

簡単に近づくことのできない存在であることは分かります。

星を眺めながら思う相手だし。

ちょっと連絡取ろう、みたいな感じじゃない。

 

単純なラブソングとしても良いけど、

どちらかと言うと、失った友人だと思うと全てが繋がるんじゃないかな。

愛情もそれなりに綺麗だけれど、

消えない友情ってもっと綺麗。

 

エネルギーに溢れた演奏を投げつける相手は、友人であってほしいな。

 

 

スターフィッシュとは、ヒトデのこと。

空から落ちてきた星、というモチーフで使われることもあります。

このタイトルも、

「君は空から落ちてきた美しい存在」というよりも、

「君が空から落ちてくればいいのに」という意味で捉えたいんですよね。

 

満天の星空を見ると、なんとなく願いも叶いそうな気がする。

そんな思いを感じる曲です。