夏の夜に聴きたい曲(5) 花火
aiko「花火」
aikoを一躍有名にした曲です。
というか、さっき調べるまでこれがデビュー曲だと思っていました。
サウンド面ではもう少し頑張れたんじゃないですかねポニーキャニオンさん、とか思わなくもないけれど。
この曲が凄まじい曲であることに変わりはありません。
この曲にはaikoの全てが詰まっている。
まずは、やはりメロディ。
aikoの専売特許のような、繊細な半音の出し入れが最初からばんばん出てきます。
特にAメロからBメロの流れなんて、aikoにしか作れないし歌えない。
ここのC→B→B♭→B♭mっていう、渦に飲み込まれていくようなコード進行も独特なんですよね。
アップテンポでポップなメロディは表面上の強がりで、それでも隠しきれない消えない不安。
それがよく描かれている場面です。
そして、有名なこのフレーズ。
夏の星座にぶら下がって
上から花火を見下ろして
こんなに好きなんです
仕方ないんです
これと似た、超有名フレーズがあります。
I'm on the top of the world
lookin' down on creation
カーペンターズの「Top of the world」。
だけど言ってることは全然違う。
「あなたの愛が、私を天に昇らせてくれる」カレン・カーペンターはこう言うけれど、
「どう考えてもハッピーエンドにはならないけれど、あなたを思えば空にも昇れる」aikoはこう言う。
そういう気持ちは何となく分かる。
誰かの愛情が幸福をくれることもあるし、
誰かへの愛情が幸福を生むこともある。
どちらも真実だけど、ドラマチックではない、詩になりにくい気持ちを容易く歌にしてしまうaikoの実力って、やっぱり凄い。
更に、
涙を落として火を消した
眼下の花火からの連想でここに至るセンスも凄いし、
消せない気持ちに無理やり蓋をする辛さを描くのに、この短い言葉でよくここまで的確に表せるものだと驚きます。
この曲のaikoは感性が瑞々しい。
それを支えるアレンジもまた凄いよね。
鍵盤とドラムだけのシンプルな構成で、歌の力を前面に押し出している。
もう少し強烈にアレンジしたくなる力を持った楽曲だけれど、こうしたからこそ感情がストレートに伝わってくる。
ある意味、若い故の直進力が生み出した名曲と言えるでしょう。
じつは、「花火」から10年後、aikoは似たテーマの曲を作っています。
ハッピーエンドにならなかった気持ちと線香花火を描いた曲、「線香花火」。
大人になったaikoの曲です。
フルで聴いてみると分かるのですが、
「花火」と変わらず鍵盤とドラムのアレンジ。
aiko、めっちゃ若いな。
aikoの一番の長所は、いつまでも瑞々しい感性なのかもしれません。
成長しながらも変わらないことの凄さ。