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過ぎゆく季節を惜しむ曲(5) 金魚花火

大塚愛金魚花火」(2004年)

 

 

夏の終わりの名曲。大塚愛のイメージとは違うけれど、こういう曲も自然に自分のものに出来てしまうんですよね。

夜に吹く少しだけ冷えた風が、夏の終わりを少しずつ運んでくるような曲です。

セミじゃなくて鈴虫が鳴いているような季節。

 

この曲を聴くと、大塚愛の作詞能力の高さに驚かされます。

情景描写の連続写真みたいな歌詞は、そのほとんどがダブルミーニングで構成されています。裏に隠された意味を読み解くことで歌詞が完成する。この人は詩人だよね、本当に。

 

夏の匂い 雨の中で

ぽたぽた落ちる金魚花火

光で目がくらんで

一瞬うつるはあなたの優顔

 

このサビ部分なんて、考えてみると違和感しか無いんだよね。

 

雨の中で花火なんて上がるはずがないし、

ぽたぽた落ちるような花火で目が眩むはずがない。

そもそも「ぽたぽた落ちる」ってどんな花火なんだ。

とか。そんな感じ。

 

 

夏と金魚っていうと、想像出来るのは金魚すくい

 

掬われた金魚って、光が減衰する水から空気の中へ持ち上げられたことで、縁日の灯りの眩しさを感じる。目が慣れてきたところで気がつくと、掬ってくれたあなたが笑っている。

ぽたぽた落ちる水滴と、あなたを見た瞬間の花火のような一瞬の衝撃。

という、金魚目線からの感情。

のように感じます。

 

だけど、金魚すくいの金魚って、だいたい行き着く先は2種類のどちらかなんですよね。

掬われるまでに弱っていて、ひと夏を越すことが出来ないか、

または忘れ去られるか。

 

だから先ほどのサビは、

一緒に生きていくことのできない悲しみの中で、涙をぽたぽた落とし、一瞬の生命力をぽたぽたと燃やし落としていく様子、

遠いあなたを思う強い感情を抱きながら夏は死んでいくのです、

と解釈することも出来るんですよね。

 

最初はさらっと、次は強く感情をこめて、同じサビを二回繰り返すことにも、もしかしたら意味があるのかも。

 

そして、最後の3:40からのアウトロで感情が堰を切ったように溢れ出すのがまた素晴らしいです。

歌詞の表層をなぞっても、多分、このアウトロが描く感情の高まりは見えないんじゃないかな。

やっぱり、この曲は歌詞あってこそだよね、と思います。