過ぎゆく季節を惜しむ曲(9) 涙のキッス
サザンを聴くと、こどもの頃に見た海を思い出します。
湘南を葉山から藤沢まで抜ける海岸通りの景色。車で走りながら、カーステレオでは父親が持っているサザンのカセットテープがかかっていました。
見渡す限り一面の海で、美しい場所でした。
実際には、渋滞するし、山が多いからあまり明るくないし、そこまで良いものでもないのですけれど。
今になって思うと、神奈川県民ってサザンをよく聴くんですよね。
どこに行ってもかかっていたイメージ。
他の地域では、あんまりそういう曲って無いように思いますけれど。
サザンの曲は、様々な夏を描いています。
熱い夏、夏の夜、ひとりの夏、夏の通り雨。
夏の終わりを描いたものも多くあるのですが、その中で最も印象的なのが「涙のキッス」です。
桑田さんの声質って、湿度が高いんですよね。
だからこそ、夏の曲がぴたりと合うんです。熱量と湿度がともに高い日本の夏。
夏の曲というとまずサザンが浮かぶのは、この声の力によるところが大きいのだと思います。
また、湿度が高いから、騒ぎ立てる曲というよりも情感たっぷりの曲、バラードが美しい。
サザンというと、まずバラードが出てきますよね。
「涙のキッス」は、桑田さんの声の力を強く実感することができる曲です。
この曲は、夏の終わりとともに別れてしまった相手を強く思う曲。
基本的には相手への未練をつらつらと独白する歌詞です。同じようなことを繰り返し呟き、思考のループに入ったような曲になっているのですけれど、
Bメロからサビに入る瞬間、今まで出てこなかったA7のコードが挟まります。ここの視界の開け方が凄い。
そしてそこからの、
涙のキッス もう一度
です。
この曲は、ここの部分に全てが詰まっていると言っても過言ではありません。
曲の流れを切るから歌謡曲では嫌われがちな「小さいつ」ですが、桑田さんはこれを、敢えてここに入れてるんですよね。
サビの頭をこうして、敢えて切る。
そうすることで、関係が一縷の望みも無く完全に切れてしまった感覚を追体験させているのです。
聞き流す曲とは違う、直接的に訴える歌詞です。
だから、この曲に関しては、これ以外の歌詞はありえないんですよね。
試しに入れてみてください。これを超えるフレーズって、絶対に出てこないから。
こういう、サウンド面やリズムから作り上げた歌詞。
これもまた、桑田さんの得意技。