People In The Box初心者に聴いてほしい曲 / アルバム。
People In The Boxが好きなのです。
彼らの魅力は、多分、音楽に対してどこまでも自由であること。
「ここから踏み出してはいけない」というような境界線みたいなものが無くて、行きたい場所がどんなに遠くても、そこを見据えて歩いて行けるような。
自由だけれど、でも、ハイレベルな技術に裏打ちされた強靭な足腰を持っていて。
何をやってるか分からん実験音楽とは一線を画すものです。
「People In The Boxの音楽はポップだ」ってボーカルの波多野さんがどこかで書いていましたが、すなわちそれは、受け手の存在を意識していることの表れで。
これは音楽のみならず、芸術全てに言えることだと思うけれど。
音楽は言葉なんですよね。
自分の世界を他者に伝えるための言葉。
だから、音楽は自分だけのためのものじゃない。
彼らの音楽的な魅力を語る際に、よく、『変拍子が凄い』だとか『使うコードが独特』だとか言われるけれど、正直、そういうのをあんまり気にして聴いたことは無いんですよね。
※彼らのドラムをコピーしたいとは一切思いませんが……
※絶対無理。
彼らの凄さはそういった音楽的な冒険心なのですが、
魅力は、その奥深さ。
取っつきづらいかもしれないけれど、一旦その世界に入り込んでしまえば、そこから抜け出せなくなるのです。
彼らの描く世界が持つ力を、もっといろいろな人に見てほしいと思います。
あんまり大量に紹介しても見づらいと思うので、シングル3枚とアルバム3枚を紹介することにします。
全ての音源はSportifyなどのサブスクリプションで聴くことができますので、聴いてみてください。
☆シングル3曲
1. 「She Hates December」
People In The Box-She Hates December
まさにPeople In The Boxを象徴しているような曲。
行き場の無い閉塞感に満ち溢れた世界観。
『白く汚れ擦り切れるのは 忘れられた朝だ』
っていう歌詞が本当に波多野さんらしくて好きです。
変拍子って、結構、得体の知れなさとか掴みづらさとか、
想像力の範疇から出ていくために使われることが多いのだけれど。
彼らの使う変拍子は、ただ「音楽的にそうあるべきだから」あるいはもっと単純に、「そっちのほうが自然だから」使われているんですよね。
そもそも、J-Popの原点の原点だと言われている炭坑節が変拍子しまくりの変態曲だし。
(長くなるので、今回は詳しく書きませんが)
聴きやすさを追求していくと楽譜上はおかしなことになる、それが自然だと思います。
楽譜がシンプルだから聴きやすいってわけでもないでしょ。
People In The Boxは、「変なことをやってるけど聴きやすいバンド」ではないのです。
あるべき美しさを求めたら、自然に見える方法ではたどり着かなかった。
ただそれだけ。
2. ニムロッド
この作品に着想を得た同名小説が芥川賞を取り、密かに有名になった作品。
作者の上田岳弘さんはPeople In The Boxのファンだそうです。
この作品では、MVの素晴らしさも特筆すべきポイントです。
実写コマ送りアニメーション? 何と呼ぶべきなのか分かりませんけれど、とにかく膨大な時間と手間がかかっていることは分かります。撮り直しもできないし。
何より、この曲の世界観を完璧に実写へ落とし込んだ素晴らしい作品。
音楽への敬意が無いとこうはならない。
これは加藤隆さんというアニメーション作家の作品なのですが、彼は最近では米津玄師さんの「パプリカ」セルフカバーの映像を手掛けていたりもします。
音楽的には……福井さんのベースが素晴らしくかっこいい曲でもあります。
独特の歌うようなベースラインを存分に味わえる曲。
ドラムとギターも、特に難しいことはしていないのですけれど。
実際に演奏しようとすれば分かる。中々こんな美しさにはならない。
譜面をなぞるだけなら簡単なのだけど、このタイトさを出せるのは、相当の腕を持った人だけなのでしょう。
3. 八月
八月 - People In The Box
波多野さんは素晴らしいメロディメーカーでもあります。
「翻訳機」「気球」「土曜日/待合室」など、美しい曲がたくさんあるのですが、それらの中でも最も美しいのはこの曲じゃないかと思います。
夏の朝の、希望とも絶望とも知れないぽっかりとした空。
そんな風景を描いた曲なのですが、
夏を描くのにこんなに空白だらけのサウンドを使う人たちを他には知りません。
☆アルバム3枚
1. Tabula Rasa
People In The Box "懐胎した犬のブルース" (Official Music Video)
映像はリード曲の「懐胎した犬のブルース」。
一聴して分かる通り、先述の「八月」にも増して余白の多い曲です。特にドラムのシンプルさ。
この「Taburla Rasa」全体に共通する特徴として、この余白の多さが挙げられるのですけれど。それは決してスカスカであることを意味しないのです。
音も余白も、全てを含めて音楽であって。
このアルバムでは、余白さえも武器として使い始めている、そんな印象です。
彼らのアルバムの中でも、最も聴いてほしいのがこのアルバム。
捨て曲無しとかそういうレベルではなくて、全ての曲が素晴らしい。
唯一の欠点は、一般人の目には決して触れないアルバムであることですね。
タワレコでもAmazonでも買えない。CDを売る気無し。
ライブ会場 or 公式サイトの通販で買うか、ストリーミング配信を聴くか、しかない。
だけど、どのストリーミングサービスでも聴けるから、どのアルバムから聴くか迷っている方は是非聴いてみてください。
一押し曲は、1曲目の「装置」。一度聴いたら数日は脳内から離れなくなること請け合いです。
2. Ghost Apple
映像は1曲目の「月曜日 / 無菌室」。
印象的なギターフレーズから始まる曲です。
アルバムとしては、彼らの中で最も取っつきやすい気がします。
初めて聴く人に1枚だけ勧めるなら、間違いなくこのアルバム。
確か、私が最初に聴いたのもGhost Appleでした。
収録曲は、
「月曜日 / 無菌室」
「火曜日 / 空室」
「水曜日 / 密室」
「木曜日 / 寝室」
「金曜日 / 集中治療室」
「土曜日 / 待合室」
「日曜日 / 浴室」
タイトルからも分かる通り、明確な意味を持ったコンセプトアルバムです。
意味は聴けば分かるので、聴いてみてください。
「日曜日 / 浴室」のアウトロは「月曜日 / 無菌室」のイントロに繋がっていて、その気になれば永久に聴き続けられるようになっています。
月曜日から日曜日に至り、そしてまた月曜日に戻る。
永遠に終わらない円環の中を彷徨う、恐ろしい世界が見えます。
コンセプトアルバムとして、世界観をここまで明確に提示してくる作品を私は他に知りません。
しかもこれが彼らのメジャーデビュー作品。
恐ろしい。
一押し曲は、「土曜日 /待合室」。
『君はカメラを逆さに構え自分に向けた
何が見える? 誰かと目が合って離れない
口を開けて 君の宇宙を見せて ほらね
言葉の無い秘密は とてもやかましい』
ここの歌詞がとても好きです。
このアルバムを、そして生きることの物悲しさを端的に描いた歌詞。
3. Family Record
映像はリード曲の「旧市街」。
初めて聴く人が最初に触れる曲がこれだったら間違いなくびびると思うのですが、
彼ららしさの一面でもあるので貼り付けてみます。
このコーラスワークこそが、スリーピースらしからぬ厚みを彼らに与えているのです。
このアルバムは、ポップな要素に振り切ったPeople In The Boxを見ることができる作品です。
「ストックホルム」「スルツェイ」など、とにかく聴きやすい曲が多いのが特徴。
世界に入り込みやすく、そして、一度入るとその奥深さにびびる。
結局、彼らの手の打ちで転がされているような気がします。
旧市街みたいな曲が突然現れたりもするし。
一押し曲はやはり「旧市街」。
このエモーショナルな部分も、間違いなく彼らの音楽性の一つ。
いくつか紹介してみましたが、全ての魅力を伝えられる気は全くしません。
聴いてみて、少しでも興味を持ってもらえたら、他のアルバムにも手を出してみてください。
多分、外れだと思うアルバムって一枚も無いから。