夏の夜に聴きたい曲(7) 夏の月
杏里「夏の月」
美しい風景が浮かぶ曲です。
杏里が歌う夜の曲というと、圧倒的に「オリビアを聴きながら」を支持する人が多いのですが、私はこの曲が好きです。
「オリビアを聴きながら」は失ってしまったあとの曲。
少しの痛みとともに、大切だった時間はもうほとんど過去のものになっている。
一方で、「夏の月」は、大切なものと今まさに離れようとする曲。
それが大切であることに変わりはないけれど、自分たちの未来のために、離れないといけない。
その微妙な心の動きを、連続写真みたいに精巧なスケッチで描いています。
重い硝子の窓を開けたら
気持ちいい風が吹いた
何かを探すように
自分が小さい頃に海の近くに住んでいたからかもしれないけれど、
こういったひとつひとつの手触りが、まるでそこにあるかのようにリアルに感じられる。
この歌詞の主人公にとって、多分、その時間はまだ大切なものであり続けていて。
だからこそ、絶対に忘れられない、全部を大切に覚えていよう。そんな心情が伝わって来ます
。
そして、そんなふうに丁寧に細かい情景のスケッチをした後、
夏の月が見ていた 私達のこの愛は
いま小さな花火みたいに
ダイナミックに変わる視線。
月から見たら、自分たちなんて本当に小さい。
こんなくどくどした自分の気持ちなんて砂粒みたいなもの。
きっと、大したことはないのだ。
って、自分に言い聞かせているような。
別れようとしている世界が、どれだけ大切なものだったのか。
その思いを丁寧に描いたスケッチ。
また、サウンド的には、
ピアノのイントロからボーカルが入り、情感たっぷりに風景を切り取っていくのですが、
1サビではリズム楽器(ハイハット?マラカス?)が入り、
2サビではドラムが入り、と、段々と熱がこもっていく。
まるで小さな独白が叫びへと変貌していくようで、エモーショナルな展開です。