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雨の日に聴きたい曲(4) ばらの花

くるり「ばらの花」

 

 

 

ショートMVとSpotifyのリンクを貼っておきます。

 

歌詞による情景描写の素晴らしさと、サウンドによる心理描写の凄み。

その両方を持った曲です。

 

「ばらの花」といえば、イントロから流れつづけるキーボードのリフ。この曲中でもっとも印象的な音です。

この音を中心に展開していくことで、万華鏡を覗き込んでいるような色彩が見えます。

 

この曲が描く雨は、霧雨のような密度の高い、まるでぬるま湯のように暖かな、

オーロラの端のような美しい雨。

雨に濡れそぼって、だけど身体が冷えるわけでもないし、このまま見上げていても別に構わない。

そんな情景が見えます。

 

だけど、何故か、どことなく不安になるサウンドです。

それは多分、やはりこのキーボードのせい。

繊細でありながら、ともすれば不協和音になりそうな進行。

ぐるぐると変転する万華鏡、

視線は一向に定まらない。

 

ドラムの音作りもそう。

強調されたスネアは、まるで2拍に1度、自分の頬を叩いて無理やりに前を向くよう。

だけどその割に、バスドラムの音が弱いから足下が定まらない。

 

サウンドの全体的な印象は、

足下も視線も定まらない中、無理やりに足を引きずって前に進もうとしているようです。

 

そこに乗る歌詞が、

安心な僕らは旅に出ようぜ

というのが。

どう見たって虚勢を張っているようにしか見えないし、

そもそも本当に安心なら旅に出る必要すらないし。

 

気が抜けて美味しくないジンジャーエールを飲んで、立ち尽くすことは簡単だけど。

だけど無理やりにでも前を向いて歩こう。

そんな、大切なものを失った弱々しい人間の、力強さを歌った曲だと思うのです。

 

ちなみに、『気が抜けて』いるのはジンジャーエールであり、自分であり。

あまりにもイケてない人間の、カッコ良くはないけれど美しい姿を象徴しています。

 

 

 

ちなみに、この「ばらの花」は、様々なアーティストにカバーされています。

解釈する人によって様々な姿が見えて面白いので、最後にご紹介します。

 

 

奥田民生

大切なものを失って気が抜けているけれど、

そもそも歩くことを止めるという発想がない人の曲。

視線は、過去からずーっと前だけを見ている。

ベース周りの音をしっかり前面に出すと、歩みがしっかりします。

 

 

yui

サカナクション「ネイティブダンサー」とのマッシュアップという形で公開された曲。

どことなく冷めていて、痛みは過去のものになったという印象。

背筋が真っ直ぐ伸びた、姿勢の良い「ばらの花」です。

 

 

矢野顕子

情念を感じるというか、命をかけています。

転調を繰り返しながら高まっていくピアノソロの熱量。

原曲からのアレンジがとんでもないですが、

何よりの違いは、もう歩き出そうとしていないこと。

こんなに燃やし尽くしたら、そりゃもう、次に行こうとは思わないでしょうね…