夏の夜に聴きたい曲(16) 育つ雑草
鬼束ちひろ「育つ雑草」
鬼束ちひろといえば「月光」とか「流星群」のイメージですが、こんなロックナンバーもありました。
近年のライブでは、同じロックでも「X」ばかりを歌っており、もはや封印された曲のようになっていますが…
悲劇の幕開け
花のようには暮らせない
食べていくのには
稼がなきゃならない圧迫的に
それまでの鬼束ちひろは、「理解されないこと」とか「漠然とした孤独」のようなものを様々なメタファーを用いながら描く、芸術の力で空に浮かぶようなアーティストでした。
I am god's child
この腐敗した世界に堕とされた
ーー「月光」
という最も有名なフレーズに表れています。
それが突然、現実的な辛さや絶望を歌い始めたんですよね。
確かに、世界と付けるべき折り合いに問題を抱えている、という意味合いでは同じ方向かもしれない。
だけど、
気分は野良犬
私は今 死んでいる
地の底を這いつくばる感覚、
何かに追い立てられるようなサウンド、
そういったものが、より切実な問題として迫ってきます。
美しい世界観で孤独を歌うことの冷たさ。
そういった作品も好きなのですが、
全てを投げ捨てて全力でぶつかってくるこの曲には、他にはない凄みを感じます。
夏に踏みつけられる雑草を描く曲。
このような全力のバンドサウンドを従えると、
楽器に埋没しない鬼束ちひろの歌唱力、ボーカリストとしての力もよく分かります。
何より、歌ってて束縛から解放されているようで。
どんな作品を出してくれても良いのですが、
歌うことで解放されるような、そんな作品であってほしいところです。